プロフィール

赤崎大さんは、1940年に中国・満州で生まれ、両親、姉妹3名を失い各地を転々として残留孤児となり、1953年に日本へ帰国。
広島大学教育学部を卒業して宗教家となる。
著書に、「満州に輝く星」、「哀しみの華輪島塗」、「華野抄」など。
現在は、講演活動中。

満州引き揚げ体験記

1945年8月6日、広島市に原爆が投下されて死街になりました。
その3日後、長崎に投下されました。
その日、中国の東北部、満州でも大事件が勃発しました。
ソ連が条約を破って重装備で攻め込んできました。
満州を守るべき強力な軍隊はいません。精鋭部隊は南方に移動していました。
その隙を狙われて満州の悲劇が始まります。

日本人はパニックに陥ります。そのため24万を超す人が亡くなり、多くの戦争孤児、残留孤児が生まれました。
私の家族も逃げ回り、遂に見つかり難民収容所に入れられました。寒い時期で、時には零下30度の寒さになります。毛布もなくムシロ一枚で、家族が肌を寄せ合って過ごすしかありません。

 食べる物と言えばコーリャンを何粒かもらい水にとかして飢えをしのいでいました。生きるために馬小屋に 忍び込んで馬の餌を拝借することもあります。飢えと寒さ、着の身着のままの不衛生の中で、腸チフスなどの伝染病が蔓延して体力の衰えた人が次々と死んでいきます。

 それは地獄です。生まれて3日の妹が1月の始めに亡くなります。名前さえありません。25日に7歳の姉洋子が、5日後に4歳の妹美智子が亡くなります。私はまだ5歳で死というものを実感できません。

 しかし母にとってわが子が死んで行くのは耐えられなかったと思います。どうしてこんな目に遭わなければならないのか。理不尽さを嘆くゆとりまなく残った9歳の兄を守るしかありません。

6年前に出版した「満州に輝く星」の一文を掲載します。

苦労を重ねてきた母は、もう見るのも辛いほどになっていた。
いつまで続くのか。無理して薬を飲ませるより好きなものを食べさせて、命を繋いだ方がよい気がしてくる。少しでも母の側から離れると、機嫌が悪い。夜中でも看病する日が続く。毎晩のように日本の様子を語る。

「まーちゃん、ひろしちゃん」

その声にびっくりして目が覚めた。

「お母ちゃん、どうしたの」

「お母さんはネ、夢を見ていたの。きれいな桜が一面に咲いていて、たくさんの子供が輪になって遊んでいるの。かーさーんーって、誰かが呼ぶの。よく見ると洋子と美智子たいなの」

「かあーさんを、輪の中に引っ張るのだけど、かあーさん、動けないよ。行きたいのに行けないのよ。ちょっと、待って、手を振ると、その輪が、どんどん遠くに行ってしまうの。それで、目が覚めたの」

「洋子たちも淋しいのネ。ああ、行ってやりたいけどネ」

「母ちゃん、いったらだめだよ。」

「そーよ。柳井の桜をもう一度見たい。こんなところで、死にたくない。でも」

満州の夜空は澄み渡り、星を遮るものもなく、さんさんと輝いている。

「にいちゃん、お母さんもあの星になってしまうの」

「バカ、そんなこと言うもんじゃない」

怒りながらも、星を見上げていた。

忘れもしない。昭和26年8月7日。何かを予言するかのように美しい夕焼けになった。

すでに口を利いてくれない。激しい息。

「おかあちゃん、何か、言ってよ」

泣きながらゆさぶり続けた。
死ぬ瞬間は、走馬灯のように思いが駆け巡るのか。どんな思いだったのか。

内地に帰りたい望郷の念を果たせずこの地で果てるのか。
残された兄弟はどうなるの。

 そして、最後に、思い至ったことは、「この子を守るために、私は、鬼にも邪にもなるよ。最後まで守りきってみせる」か。

1秒、2秒、激しかった息が止まった。
 午後7時10分。長い 長い 沈黙が、襲ってきた。
言葉は出ない。ただ、泣くしかない。

 真っ赤な夕日に吸い込まれるように母の42年の短い命は、異国の地で果てた。これが波乱万丈の人生なのか。悔いても悔いの残る人生だっただろう。

 母の果たせなかった思いは、それから1年半の春桜の咲く日本に帰ってきた。昭和28年4月、私13歳、兄17歳です。

 帰国して初めて父がシベリア抑留の途中で病死していたことを知ります。父の弟の叔父が身元を引受けてくれて、小学校6年生として教育を受けます。
高校から奨学金をいただき、広島大学は、アルバイトをしながら卒業します。

満州の悲劇を振り返っても国破れては、平和はありません。
憲法では国は守れません。
国防こそ最大の福祉と信じています。

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投稿者プロフィール

masa
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インターネットマーケティングコンサルタントの大内雅司です。
私は、 従業員10名以下の様々な企業や飲食店などの実店舗のあるリアルビジネス向けの Web広告を活用した集客支援とWebマーケティング支援サービスを提供しています。

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